近年、製薬業界やCSO業界で需要の高まるMSL(メディカル・サイエンス・リエゾン)職。当社のクライアント企業様からも、MSLを採用したいけれど採用に苦戦しているというご相談が近年増加しています。多くの方にMSLという職種について知っていただき、情報交換のできる場を設けることを目的とし、当社は先日、「経験者が語る―未経験MSLのキャリアを築くには?と」題し、現在MSLとして働いていらっしゃる3名をお招きしてパネルディスカッションを開催いたしました。
イベントは主に以下のような皆様を対象として開催いたしました。
- サイエンスのバックグラウンドを活かしたキャリアチェンジがしたい
- キャリアの方向性に悩んでいる
- 新たな職種にチャレンジしたい
- MSLという職種について、聞いたことはあるが具体的なことはよくわからない
- 実際にMSLとして働いている人の話を聞きたい
- MSL同士で情報交換のできる場が欲しい
- MSLとしてのキャリアに興味があるがトレーニングなどのリソースが見つからない
- メディカルアフェアーズという職種について知見を広げたい
当記事では、MSLに関する基本的な情報に加えて、パネルディスカッション内でお話しいただいた内容をまとめてご紹介いたします。未経験からMSLとしてのキャリアにご興味をお持ちの方やMSLとしてのキャリアアップをお考えの皆様、ぜひご覧くださいませ。
MSLの採用が難しい背景
冒頭で触れたように、今回のイベント開催の背景にはMSLの採用が難しいといったクライアント企業様のお声があります。この理由について、リアルライフサイエンスの製薬・バイオ部門のマネージャーを務める飯田は、以下のように話します。
「採用が難しい背景には圧倒的な人材不足があると考えています。MSLは日本では2010年代から採用が始まった新しい職種であるためMSLとしての経験を持つ方は非常に少ないですし、MSLという職種に適性のある方々、例えば研究職やアカデミア、MR、CRA、薬剤師、看護師などの皆様にも、MSLという職業がまだあまり認知されていない現状があります。具体的には仕事内容だったり求められる経験やスキル、実際の年収帯、またMSLになった後のキャリアの展望であったり、まだまだ手に入る情報が限られているのが事実です。
加えてMSLになりたい、またMSLとして今後キャリアアップをしていきたいという方にとっても、教育やトレーニングなどのリソースが不足していることに加え、MSLのコミュニティやネットワークなど、情報共有や交換ができる機会があまりないことが人材不足の一因となっているのではないかと考えています。」
今回ご参加いただいたパネリストの方々
Oさん(男性、MSL歴4年)
ポスドクの後、有機化学者として企業に就職。結果も出て充実した生活を送っていたが、現場や患者さんからは実際にはどのような薬が必要とされているのかが見えづらく、自分の仕事は患者さんの役に立つのだろうかという疑問を感じていた。そのような中でより臨床に近いところで働いてみたいと思うようになり、MSLへの転身を決意。
Kさん(女性、MSL歴1年)
元々は営業部でMRとして働いていたが、別の職種の視点から物事を見て新たなことに挑戦したいと思い、MSLへ転身。
Mさん(男性、MSL歴3か月)
神経科学の研究者として国内の研究所に勤めていたが、任期のない職業への転職を考えていた中で、MSLへ転職した知人から、MSLの業務では科学者としての経験を活かしながら誰かの役に立つ実感を得られると聞いたことがきっかけとなり、MSLへ転身。
MSLとは?
MSL(Medical Science Liaison /メディカルサイエンスリエゾン) は学会や論文、また医療現場からのインサイトを基に最新の医学的・科学的な情報収集と精査を行い、KOL(Key Opinion Leader、医療業界で高い影響力を持つ医師や専門家)への情報提供や情報共有を通じて新たな治療法や最適な治療を普及させる役割を担う職種です。多くの企業においてMedical Affairs(メディカルアフェアーズ)部門に所属しており、自社の製品の販促活動を担当する部署である営業(MRなど)やマーケティングからは独立した存在として位置づけられています。
MSLの仕事内容
MSLの具体的な仕事内容としては、
- 担当疾患領域における最新情報の収集・提供
- 医師を中心とするKOLとの面談、またそれに向けた資料・論文などの準備
- 医師や技師など医療提供者と連携して医療現場のインサイトを集める
- 社内外で情報共有や情報発信を行うための聴講会や勉強会などの企画・運営
- メディカルプランの策定
などが挙げられますが、組織の規模などによって具体的な仕事内容は異なります。
今回イベントにご参加いただいたパネリストの方々からは、以下のようなお話を伺いました。
Oさん:MSLという職種の最終的な目的は、医療現場と患者さんのギャップを埋めて戦略に活かすことだと思っています。私自身も、医師が思っていることと患者さんが思っていることの間にはかなりギャップがあるということをMSLになって初めて知りました。疾患啓発やエデュケーションセミナーなどを通じて医師を教育し、患者さんのためとなるよう医療全体に還元する。そのサイクルの一端を私たちMSLが担うことができればと思っています。
Kさん:Oさんのおっしゃった、医師と患者さんの間にギャップがあるというのはその通りで、それをどのように近づけることができるのかが重要な経営戦略だと思います。私自身はMRからMSLへの転身でしたが、疾患啓発を行う点などにおいてはMRと重複するところも少なくないと感じます。
MSLの一日
普段どのような業務をされているのか、具体的な様子がわかるよう「とある一日」の流れをお三方にお話しいただきました。
Oさん:私はコロナ前と今で仕事の様子ががらりと変化しました。今は医師との面談もほとんどすべてがオンラインなので実際に病院に行くことはなく、在宅勤務が基本です。私の場合、一日のうち1~2回は先生(医師)とコミュニケーションを取る時間を設けるようにしています。その面談の間に、前回の面談でのお話を踏まえて適切な資料や論文の準備をしておく必要があります。最近は講演会の企画や、先生に集まっていただきアドバイザリーボードという形で当社の製品についての意見を伺う会の企画運営なども行っています。
KOLである先生方とは定期的にアポを取りお会いしていますが、そのためにはまず先生との信頼関係が非常に重要だと感じています。私の場合は論文などを通じて仕入れてた最新の情報などを先生にお伝えしてディスカッションを行い、先生方にも何かしらの気づきを得ていただく―それを繰り返すことで、その領域のスペシャリストとして認識してもらい、関係を築いています。
Kさん:私の場合一日の流れは出張があるかどうかで大きく異なります。外勤の日は朝から移動して病院へ足を運び、先生や技師さんとお話して、というのを繰り返すような形です。出張がない日はウェビナーの準備をしたり、メディカルプランを立てたり、先生の研究相談の準備をしたりと日によって作業内容は異なります。
Mさん:私はMSLとしてのキャリを始めたばかりということもあり、現在はトレーニングや文献・論文を調べて知識を入力していくことが日々の業務の中心となっています。研究者の時は自分の研究結果を発表するというスタンスでしたが、MSLの業務の鍵となるのは医師との双方のコミュニケーションですので、そのあたりの違いにも新鮮さを感じています。
MSLのやりがいや大変なこと
MSLのやりがいとして、以下の点を主に挙げていただきました。
- 自分が担当する領域においてトップクラスの先生と話すことができる(その分事前の準備は大変だがやりがいがある)
- 疾患のスペシャリストである医師がまだ知らないことについて、詳しいことや背景にあるメカニズム、臨床試験を通じたエビデンスに至るまでを学ぶことができる
- 先生とのディスカッションの中で疾患に対する課題が見つかり、薬剤師の先生方などからの意見も踏まえて次の戦略を考え、その戦略が一施設だけではなくて複数の施設、またメディカル部門だけではなくマーケティングなど、さまざまなステークホルダーに拡大していくサイクルを生み出せる
大変な点としては、社内外含め、MSLがどのような仕事なのかあまり理解されていない、他の部門からの理解や認知度が低いという点を挙げていただきました。
MSLに向いている人とは?
MSLの職務を進めていくうえで大切なスキルとして、主に以下の2つが挙げられます。
- 論文などから適切に情報を読み取る情報収集能力
- KOLとの関係を構築し、ニーズを把握するためのコミュニケーション能力
ご参加いただいたパネリストの方からは、「誰にでも一長一短があるので、自分の強みが何かを認識してそれをどうアピールできるかが非常に重要なポイントになると思います」とお話しいただきました。また、MSLは営業部などから独立しており様々なガイドラインを遵守する必要のある職種であることから、未経験であっても企業からしっかりとしたトレーニングが提供されるため、経験の有無にかかわらず挑戦して大丈夫とのお声もいただきました。
MSLとしてのキャリアを築くためのリソース
冒頭でも言及した通り、認知度が低いことに加えて、日本ではMSLに関する情報やスキルアップのためのリソースがまだまだ不足しています。今回イベント運営にあたりご協力いただいたMSLS(Medical Science Liaison Society)は、MSLになるためのオンライントレーニングをはじめ様々なリソースを提供しています(現在英語のみ)。
MSLS - https://www.themsls.org/
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サイエンスのバックグラウンドを活かしたキャリアやMSLとしてのキャリアに興味があり、様々な情報を入手したいけれどまだまだ手に入る情報が少ないとお考えの方がいらっしゃいましたら、今後定期的に開催予定のイベントにぜひご参加くださいませ。以下のフォームよりご登録いただきますと、今後開催するイベントについていち早くお知らせいたします。また、ご登録のお礼として2022年度版最新の給与・採用動向調査をお送りいたします。
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